油脂とは?|グリセリンと高級脂肪酸のエステル
油脂は「グリセリン」と「脂肪酸」からできている
高校化学でいう「油脂(ゆし)」とは、グリセリンと高級脂肪酸が結びついた化合物のことです。
グリセリンは、3つの –OH(ヒドロキシ基)をもつアルコールで、脂肪酸は長い炭素の鎖をもつカルボン酸の一種です。
▶ グリセリン:C₃H₅(OH)₃(3価アルコール)
▶ 高級脂肪酸:炭素数が多い脂肪酸(C12以上)
油脂は、1分子のグリセリンと3分子の高級脂肪酸が結びついてできる「トリグリセリド(三酸化グリセリド)」と呼ばれる化合物です。
エステル結合でつながった構造がポイント
油脂の構造で大事なのが「エステル結合」です。
グリセリンと脂肪酸が反応するとき、水分子(H₂O)がとれてエステル結合(−COO−)ができます。この反応は「エステル化」と呼ばれます。
グリセリンは3つのOH基を持っているため、3か所でエステル結合ができるのが特徴です。
つまり、1つのグリセリンに対して3つの脂肪酸がくっついて、1つの油脂ができるのです。
💡 ポイント:油脂=「グリセリン」+「脂肪酸」×3(エステル結合でつながる)
この構造があるため、油脂は中性のエステルに分類され、加水分解すると再びグリセリンと脂肪酸に分かれます。これが後に学ぶ「けん化反応」にもつながります。
高級脂肪酸の種類|飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のちがい
油脂を構成する「高級脂肪酸」は、炭素数が多い(C12以上)長鎖の脂肪酸のことです。
この高級脂肪酸には大きく分けて、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2種類があります。
飽和脂肪酸とは?|二重結合なしで安定
飽和脂肪酸とは、炭素同士の結合がすべて単結合になっている脂肪酸のことです。
二重結合がないため、分子の構造がまっすぐでぎっしり詰まりやすく、常温で固体になりやすいという特徴があります。
▶ 飽和脂肪酸の代表例
- パルミチン酸(C₁₅H₃₁COOH)
- ステアリン酸(C₁₇H₃₅COOH)
飽和脂肪酸は酸化されにくく、保存性が高いため、バターやラードなどにも多く含まれています。
不飽和脂肪酸とは?|二重結合ありで不安定
不飽和脂肪酸は、炭素同士の間に二重結合がある脂肪酸です。
この二重結合によって分子が折れ曲がるため、分子同士が詰まりにくく、常温で液体(脂肪油)になりやすい性質があります。
▶ 不飽和脂肪酸の特徴
- 二重結合がある=酸化されやすい(不安定)
- 二重結合の数が多いほど柔らかい、液体になりやすい
覚えるべき脂肪酸
油脂の分野でよく出題される脂肪酸は、以下の5つです。
それぞれ飽和か不飽和かをセットで覚えましょう。
脂肪酸名 | 構造の特徴 | 飽和 or 不飽和 |
---|---|---|
パルミチン酸 | C₁₅H₃₁COOH(直鎖) | 飽和 |
ステアリン酸 | C₁₇H₃₅COOH(直鎖) | 飽和 |
オレイン酸 | C₁₇H₃₃COOH(二重結合1つ) | 不飽和(1価) |
リノール酸 | C₁₇H₃₁COOH(二重結合2つ) | 不飽和(2価) |
リノレン酸 | C₁₇H₂₉COOH(二重結合3つ) | 不飽和(3価) |
🔍 ポイント暗記法:
- 飽和→「パル」「ステ」
- 不飽和→「オレ」「ノール」「ノレン」というように語感で覚えるとスムーズ!
油脂の分類と状態|常温で固体?液体?その違いは?
油脂といっても、その見た目や性質は1つではありません。
油脂は構成している脂肪酸の種類(飽和・不飽和)によって性質が変わるのです。
脂肪と脂肪油のちがい(常温での状態)
油脂は、常温での状態によって以下のように分類されます。
分類 | 常温での状態 | 飽和/不飽和の割合 | 例 |
---|---|---|---|
脂肪 | 固体 | 飽和脂肪酸が多い | バター、ラード、牛脂など |
脂肪油 | 液体 | 不飽和脂肪酸が多い | オリーブ油、大豆油、菜種油など |
🍳 なぜ違うの?
飽和脂肪酸は直鎖構造なので分子が整列しやすく、個体になりやすい。
不飽和脂肪酸は二重結合で折れ曲がっており、整列できず、液体になりやすいのです。
油脂は水に溶けにくく、有機溶媒に溶けやすい
油脂は極性が小さいため、水のような極性の大きな溶媒には溶けにくいという特徴があります。
逆に、有機溶媒(非極性の液体)にはよく溶けます。
💡 ポイント:
- 「水には溶けない」=石けんが必要になる
- 「油は油に溶ける」=似た者同士は混ざりやすい
硬化油と乾性油|不飽和度のちがいで使い道が変わる!
油脂に含まれる不飽和脂肪酸の二重結合の数や性質によって、油脂の使い道は大きく変わります。
その代表的な例が、「硬化油」と「乾性油」です。
硬化油とは?|水素添加して固体化
硬化油(こうかゆ)とは、不飽和脂肪酸に水素(H₂)を付加して飽和脂肪酸に変えたものです。
この操作を「水素添加反応」といい、油を固体化させる目的で使われます。
▶ どうして固まるの?
- 二重結合に水素を付加すると、単結合に変わり、飽和脂肪酸と同じ構造になる
- 分子がまっすぐ並ぶようになり、常温で固体になる
▶ 使い道:マーガリン、ショートニングなどの食品加工
💡 不飽和脂肪酸に水素を加える → 飽和脂肪酸になる → 固まる=硬化油
乾性油とは?|空気中で酸化・固化する油
乾性油は、二重結合を多く含む不飽和脂肪酸を含む油脂のことです。
これらの油は空気中の酸素と反応(酸化反応)し、自然に固まる性質を持ちます。
▶ なぜ固まるの?
- 多価の不飽和脂肪酸(例:リノール酸・リノレン酸)が空気中の酸素と反応
- 分子同士がくっついて固まる
▶ 使い道:油絵具、ニス、印刷インキ、木工仕上げなど
💡 二重結合が多い油 → 空気にふれると固まる=乾性油
🔍 硬化油と乾性油のまとめ表
分類 | 変化の仕組み | 性質 | 主な用途 |
---|---|---|---|
硬化油 | 水素添加(二重結合の飽和) | 固体になる | 食品(マーガリン等) |
乾性油 | 酸化・重合(二重結合同士) | 固体になる | 絵具、ニス、塗料 |
けん化とけん化価|石けんができる化学反応
油脂は、強い塩基(水酸化ナトリウムNaOHや水酸化カリウムKOH)と反応すると、石けんとグリセリンができるという特徴があります。この反応は、けん化と呼ばれます。
けん化とは?|水酸化ナトリウムとの反応で石けんができる
油脂はエステルの一種です。
エステルは、塩基と反応して加水分解される性質があり、この反応によって脂肪酸が脂肪酸ナトリウム(=石けん)の形になります。
🧪 けん化の反応式(例:油脂+NaOH)
油脂(トリグリセリド)+ 3NaOH → グリセリン + 脂肪酸ナトリウム(石けん)
このとき生成する石けんは、陰イオン性界面活性剤として働き、水に溶けることで汚れを落とす働きを持ちます。
💡 ポイント:けん化=エステルの塩基加水分解反応!
けん化価とは?|油脂1gに必要な水酸化カリウムの質量mg
けん化価(けんかか)は、油脂の性質を調べるための指標で、以下のように定義されます。
▶ けん化価の定義
油脂1gを完全にけん化するのに必要なKOH(水酸化カリウム)の質量mg
この値が大きいほど、油脂を構成する脂肪酸の分子量が小さい(=短い脂肪酸が多い)ことを意味します。
📌 けん化価が大きい油脂
→ 分子量の小さい脂肪酸が多い📌 けん化価が小さい油脂
→ 分子量の大きい脂肪酸が多い
けん化価は食品や化粧品、工業用途などで油脂の品質を調べるために使われる重要な数値です。
🔍 まとめ:
- けん化反応=油脂が石けんとグリセリンに分かれる反応
- けん化価=油脂1gをけん化するのに必要なKOHの量(mg)
付加反応とヨウ素価|不飽和度を調べる指標
油脂に含まれる不飽和脂肪酸は、二重結合をもっています。
この二重結合はさまざまな物質と「付加反応」を起こす性質があり、その性質を利用して油脂の不飽和度(どれくらい二重結合があるか)を調べることができます。
不飽和脂肪酸の二重結合に付加反応
付加反応とは、二重結合や三重結合に何かが「加わる」反応のことです。
不飽和脂肪酸には C=C のような二重結合があるため、ハロゲン(例:臭素Br₂やヨウ素I₂)などが付加しやすいのです。
たとえば、臭素水を不飽和脂肪酸に加えると、臭素が二重結合に付加して臭素水の色(赤褐色)が消えるという変化が見られます。
💡 二重結合が多いほど、より多くの臭素やヨウ素が反応 → 色がたくさん消える!
このように、二重結合があることを反応のしやすさ=量で測定できるのです。
ヨウ素価とは?|どれくらいヨウ素が付加するかで不飽和度がわかる
ヨウ素価(ようそか)とは、油脂に含まれる不飽和度(二重結合の多さ)を示す数値です。
▶ ヨウ素価の定義
油脂100gが反応するヨウ素(I₂)のg数
不飽和脂肪酸の二重結合にヨウ素が付加することを利用して、どれくらいの量のヨウ素と反応するかを測定することで、その油脂がどれくらい不飽和なのかがわかります。
ヨウ素価 | 特徴 | 例 |
---|---|---|
高い | 二重結合が多い(=不飽和脂肪酸が多い) | 乾性油(あまに油、ひまわり油など) |
低い | 二重結合が少ない(=飽和脂肪酸が多い) | 硬化油、ラードなど |
🔍 ポイント:ヨウ素価が高い=空気に触れて固まりやすい=乾性油の性質と関係がある
【確認】けん化価とヨウ素価の違い
指標名 | 調べる内容 | 単位の基準 | 意味 |
---|---|---|---|
けん化価 | 分子量の大小(脂肪酸の長さ) | 油脂1gあたりKOH(mg) | 小さいほど長い脂肪酸が多い |
ヨウ素価 | 不飽和度(二重結合の多さ) | 油脂100gあたりI₂(g) | 大きいほど不飽和脂肪酸が多く、液体油の性質 |
まとめ|油脂の構造と反応をおさえて得点源に!
油脂は、「構造」「分類」「反応」のすべてが重要で、高校化学の定番単元です。
特に、以下のようなキーワードはしっかり整理して覚えておきましょう。
- 油脂=グリセリン+脂肪酸×3(エステル結合で結合)
- 飽和脂肪酸(例:パルミチン酸、ステアリン酸)と、不飽和脂肪酸(例:オレイン酸、リノール酸、リノレン酸)
- 油脂の分類(脂肪・脂肪油)と性質(有機溶媒に溶けやすい)
- 硬化油=水素添加で固体化、乾性油=酸化で自然に固まる
- けん化反応・けん化価・ヨウ素価の意味と違い
📝 共通テストでも出題!
2021年の共通テスト(化学・第4問・問2)では、
油脂の定義・硬化油の作り方・けん化価・ヨウ素価に関する問題が出題されています。
✅ ポイントチェックリスト(自分で答えられるか確認してみよう)
- 油脂は何と何のエステル?
- 飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違いは?
- 硬化油と乾性油の違いは?
- けん化価とヨウ素価はそれぞれ何を示す?
これらに答えられるようになっていれば、油脂の単元はほぼマスターです!